何を選ばせるか?という”選択”

さてさて、ここから本題。
ようやく「ストーリーテリング」を「ゲーム」として遊ぶためのポイントが見えてきました。それは「物語志向のセッションでは、流れを堰き止めるような障害は少ないほど良い」「GMの想定した”正解”と一致しなければ話が進まないようなマスタリングは、物語の勢いと可能性を殺す」ということ。バリアフリー推奨というか、「PCがどんな風に動いても話自体は先へ進む」ように設定したほうが、「より面白く盛り上がるストーリー」を生み出しやすいということです。
まず、TRPGにおいてプレイヤーが考慮・判断・選択すべき要素は以下の3つに大別されます。

要素A:リソースの効率的な運用(HP/MP/所持金/消耗品/仲間の命等の無駄遣いや喪失を防ぐ)
要素B:ストーリーの停滞や破綻を回避/突破して、PCの目的やミッションを達成する
要素C:面白いストーリー、盛り上がるシーンの追求

そして、TRPGは「リソース管理(要素A)」と「ロールプレイ(要素B+C)」を両立させて楽しむゲームである……というのが一般的な認識でしょう。
ここで注目したいのは、「要素BとCが混同されやすい」という点。基本的に、PLはハッピーエンドやミッションの成功を目指して行動します。その途中で行われるNPCとの交渉や情報収集・謎解きがPL自身の話術・演技力や判断力に依存しているのと、PCの成功がPLにも快感をもたらす傾向があるため、BとCを特に意識して分けずとも上手くいく場合が多いのでしょう。
しかし実際には、BとCは同じものではありません。むしろBは「GMが設定した障害を突破する」という意味においてAに近く、Cと相反することもあるのです。
普通のセッションでは、「PCの行動失敗」はストーリー上何のメリットも生み出しません。いいとこ、「場を和ませるギャグ」か「キャラクタープレイを彩るエピソード」として記憶に刻まれる程度です。だからPLは可能な限り「失敗しないように」行動するか、せいぜいミッションの成否に支障のない範囲で「大局的には無意味な行動で失敗し、個性をアピールする」程度にとどまるわけです。

このように見ていくと、GMがミッションの難度を下げることによるメリットは三つ。
第一に、一つの課題に対して「複数の正解」が認められることにより、有利不利よりも盛り上がりを重視した行動選択が増えること。(安全策や慎重策によって展開が白けたり、ムダに時間がかかったという経験は、誰しも覚えがあると思います)
第二に、PCに許容される行動の幅が広がること・一つの失敗が致命的な破綻につながるようなマスタリングを避けることによって、PCの失地回復を意識的・計画的にドラマへ組み込んだり、ミッションの成否とは無関係なラインで個人エピソードやPC間の絡みを演出し、それらを繋ぎ合わせて意味のあるドラマを生み出すのが容易になること。
そして第三のメリットは、ドラマ的な盛り上がりに関係のない部分でセッション時間を無駄遣いすることを避け、話作りに専念しやすいことですね。通常は「不正解」や「空振り」による停滞・試行錯誤で時間を食うため、ストーリー全体の流れや整合性にまで配慮する余裕はないですから。(この部分において、要素AとCは意外にも「実時間というリソースの効率的運用」という共通項を持つことになります(笑))
探索・戦闘・謎解きのような「障害突破」を主眼に置いたセッションが悪いというわけではありません。しかし「ドラマ作り」との両立は現実として難しい、というだけの話です。


……で、「ホールデンの指環」後編オンセログに目を移すと。
シナリオの構造自体は非常に単純です。「洞窟に入って道なりに進み、ボスと対面して会話し、戦う」だけ。要所要所でPCがどんな判断を取り、どんな行動を選んでも、シーンは先へ進むようになっています。
でも実際のプレイでは、どのプレイヤーも時間をかけて真剣に悩み、様々な取捨選択を行っていました。「どうすれば話が先に進むか」ではなく、「どんな展開を選べば話が綺麗にまとまるか」というレベルでゲームを進めていたわけですね。

たとえば今回のセッションで、中盤の焦点となった「扉」のシーン。扉を開いて先へ進むための条件は「特定のキーワード」を探し出すのではなく、PCが「自分自身の願いを口にする」ことでした。基本的には誰が何を言っても扉は開くわけです。この「自動正解」シチュエーションはロールプレイを刺激しやすいこともあって、以前から自分好みでした。
ところが今回は、「誰が願いを口にするのか?」という点を巡って駆け引きが生じました。GMとしては全員に言わせるつもりでいたんですが、PCが「願いの強さ」に着目したことから、「ここで願いを口にした者が、その先のシーンで最も重要な役割を演じることになる」という流れに。そして実際この場面で「主役」が確定し、さらには流れを作ったPCも存在感を増した……というわけです。

この辺りは「#紫色の星々」第5回にも通じるものがあって。ストーリー本編と並行してPC個人・PC間のドラマが展開すると共に、PL自身が納得いくまでストーリーの盛り上がりと意義付けを追求し、本筋そのものに解釈と意味を上塗りしていくようなテクニックが確立されつつあり、GM冥利に尽きます。

取り止めが無く自画自賛な話になっちゃいましたが、いったん区切ります。具体論に話を移すと終わりそうにないので、いずれまた。