「特殊な設定」を自己満足で終わらせないために

前回のエントリ「「役柄」分担とキャラメイク」の脱線部分について。論点を絞るためにファンタジー系で話を進めますが、論旨そのものは他のジャンルにも適用できると思います。

決して差別的な意図はありませんが、各PLが自分の趣味やキャラ性能だけ考えてばらばらにキャラメイクすると「全員女性キャラ」とか「異種族だらけで人間が一人もいない」という風に、ベタなヒロイックファンタジー路線とは噛み合わないPTが出来上がってしまう場合もあります。
「役柄」の重複や偏りは悪いと言い切れるものではなく、逆に偏りを集団全体の個性に変えてしまう方法もありますが、長い脱線になるので後日改めて。

どうして「全員女性キャラ」や「異種族だらけで人間が一人もいない」とマズいの?という疑問や反論も当然あるでしょう。個人的趣味を差し置いて説明するなら、理由は以下のとおりになります。

  1. 一般的なファンタジー物語では人間の少年少女や若者を主人公(≒読者・視聴者・観客等の多くが視点を重ねて感情移入する対象)として配置していることが多い。また、ドラマを彩る様々なシチュエーションや人物関係(交友・恋愛・ライバル等)も、そのような”標準的な主人公タイプ”のキャラクターが関わることで活きてくる場合が多い。主要キャラクターに”標準的な主人公タイプ”が含まれていない場合、ベタで魅力的なシチュエーションの多くが役に立たず、ストーリーの盛り上げ方が著しく制限されてしまう。
  2. 冒険者の世界において設定的・人口分布的に”特殊”であるキャラクター(異種族や女性)は、標準的なキャラクターとの対比描写によってその特殊性を強調される。異種族を描くには普通の人間との対比、女性を描くには男性との対比が有効。だが、”特殊”なキャラしか存在しない集団では比較の基準が存在せず、個々の特殊性が意識されにくい。

一つめの項目について言えば、「PC全員が女性キャラだと、GMがヒロインを出して”ボーイミーツガール”系のシナリオをやろうと思っても出来ない」というのが顕著な例です。最悪、PCに一人でも男性キャラがいれば、NPCヒロインを出さなくてもPC同士でボーイミーツガールが出来るので何とかなりますが、全員女性となると難しいです。もちろん「ヒロインの代わりに男性NPCを出してPCと関わらせる」という方法もありますが、TRPGは原則的に「PCが活躍する物語を作るゲーム」ですから、登場させることのできる男性NPCのタイプは限られてきます。(そういう意味では、セーラームーンのタキシード仮面に代表される、バトルヒロイン系少女漫画の「助っ人とお姫様役を兼ねた王子様キャラ」は秀逸ですね)
また、これは多少私見が入りますが、女性だけのPTは雰囲気的に甘くなることが多く*1、ハードで殺伐とした方向性のセッションには不向きなように思えます。人情物や萌えを前面に打ち出したセッションならともかく、『ベルセルク』や『ヴィンランド・サガ』みたいなノリの話をやろうとすれば男性メインにならざるを得ないので、少なくともGMにセッションの方向性を確認すべきでしょう。


二つめの項目については、「PTが外部から見て”特殊”であるように描写・演技すれば問題ないのでは?」という考え方もあります。しかし、PL自身が自集団の特殊性を客観視するためには、やはり内部に”標準的なキャラ”が存在した方が良いでしょう。
なお、『ファンタズムアドベンチャー』のように「様々な種族が入り乱れて暮らすのが当たり前」という世界では、「人間」にこだわる必要性も薄いと思われます。




さて。PLの多くが「特殊」なキャラを作成した場合、二通りの対処法があります。


一つは後からキャラを作るPLが「普通」のキャラを選んだり、偏っていたキャラを作り直すことによってバランスを取る方法。たとえば「異種族や女性キャラの比率が高いので、自分のキャラは人間男性にする」といった感じです。この場合、対比によって自分の側も「普通であることを個性にする」というアピールが可能になります。
ちなみに流星亭のオンセ「ホールデンの指環」では、実を言うとセッション開始前に「役柄」バランスとシナリオの相性を憂慮したPCの作り直しが行われていました。当初、PC1は男性のカウツではなく少女キャラとして作成されたのですが、PT内で女性キャラが大半を占めると同一NPCに対する「復讐劇←→肉親探し」の綱引きが成立せず、話が締まらなくなってしまう……という意見が出たためです。PL1当人も同意してくれてPCを作り直した結果、セッションに緊張感が出て面白くなったので、GMも感謝しています。ただ、一般的には既に他人が作成したPCに作り直しを求めても受け入れられず、揉めてしまう危険性も高いので、卓全体に「ドラマの盛り上げ方を考慮しつつPCを作る」という意識が浸透していない場合は口出しを避けた方が良いかもしれません(そうした卓では、「役柄」分担意識を持つPLが自分のキャラメイク時に出来る範囲でバランス取りを行うことになるでしょう)。
亜流としては、GMがPCの設定に合わせてNPCの設定をいじるという方法もあります。たとえば「魔物に襲われた村でPCが生き残りの少女を助ける」という設定のシナリオを作ったのに、ヒロインと絡めそうなPCが見当たらない場合。「少女」を「幼い男の子」に変更したら、PLがボーイミーツガールではなく保護者的な視点からNPCに関わり、話を盛り上げてくれた……というような経験があります。


もう一つは、PL/GMの双方が意識的に「偏った集団」であることを強調して話に取り入れる方法。
たとえば、とあるセッションで出逢った「1つのPTにエルフが二人」というケース。普通はキャラが被ってやりにくいと思います……が、当人たちはその場で「兄妹」という設定を作り、二人揃って存在感をアピールしていました。実に上手いなあと感心した覚えがあります。
また、別のPTでは「前衛キャラが全員斧使い」であることを逆手に取り、ギルドに「太陽の戦斧」と名付けて集団自体の個性に変えたというケースがありました。戦士系キャラが複数存在した場合はそれぞれ違う武器を選んで個性をアピールするのが通例ですが、まったく逆方向の個性づけもありうるわけですね♪




今回述べたような考え方は、ドラマ構築を重視しなければ必要ではありません。PL個々人が好みでキャラを作った結果として全員女性キャラになろうが、種族スキルや職業との相性を重視した結果として人間不在のPTになろうが*2、戦闘やミッションをこなすだけなら支障ないからです。
しかしPC同士の関係によってドラマを掘り下げようとするなら、PT内や物語世界内での立ち位置(今回の話では”キャラの特殊性”に対する認識)やメンバー構成の「役柄」的なバランスも考慮した上でキャラクターを設定した方が良いでしょう。

*1:これは「男性PLが個々の理想を投影しながら演じる女性PC」の集団に限った話かもしれませんが。

*2:たとえばアリアンロッドの場合、《アックスマスタリー》目当てでネヴァーフ・《ウィング》目当てで天翼族を選ぶPLが多く、他のPLもクラスと相性の良い種族を選びがちなため、ワンオフにおけるヒューリンの選択率は低いようです。それでも今では《オールラウンド》の追加によって、ヒューリンも多少は復権していますが。このような状況から考えると、個人的にはリプレイ・ルージュの全員ヒューリンという構成(および「種族」という記号に頼らない各PCのキャラ立て)を高く評価します。