「役柄」分担とキャラメイク

ただ単にキャラクター個人を演じるのと、「集団内におけるキャラクター個人」を演じるのでは、意味合いも難易度も大きく異なります。そして、ストーリー重視型のセッションでは、後者を意識してプレイする必要が出てきます。


◆1:「役割」分担と「役柄」分担◆


とりあえず用語の定義から。国語的に正しいかどうかはさておき、本考察での便宜的な区分です。

  • キャラクターの職業や能力など、判定・戦闘・ミッション遂行に直接影響を与える個性を「役割」と呼ぶ。
  • キャラクターの(年齢・性別・種族や性格・過去設定などを加味した)演技およびドラマ構築に影響を与える個性を「役柄」と呼ぶ。

各キャラクターには、それぞれ「役割」と「役柄」が与えられます。たとえば「戦士」という「役割」を持ち、「正義感が強すぎて、しばしば暴走し仲間と衝突する少年」という「役柄」を持つ……という具合。


◆2:「役柄」分担が上手くいかないと、どうなるか?◆


TRPGではミッション遂行のための「役割」分担は常識的に行われますが、ドラマ構築において重要な「役柄」分担については意外に無頓着な人が多い……と、個人的には感じます。
「役割」分担において、PTが戦士だらけで治療役や盗賊がいなければ機能不全を起こすように、「役柄」分担も考慮しなければドラマ形成に支障が出る場合は多いんですけどね。


最初に挙げられるのは「役柄」の重複と偏り。言い換えれば「キャラが被る」って奴です。
ボケ役だらけでツッコミ不在、というのが一番わかりやすいですね。また、決して差別的な意図はありませんが、各PLが自分の趣味やキャラ性能だけ考えてばらばらにキャラメイクすると「全員女性キャラ」とか「異種族だらけで人間が一人もいない」という風に、ベタなヒロイックファンタジー路線とは噛み合わないPTが出来上がってしまう場合もあります。
「役柄」の重複や偏りは悪いと言い切れるものではなく、逆に偏りを集団全体の個性に変えてしまう方法もありますが、長い脱線になるので後日改めて。


むしろ問題になりやすいのは、相対的な人間関係やドラマ的要望を組み込んで「役柄」設定したキャラが周囲と噛み合わない場合。
たとえば、「新米の少女剣士が味方に守られながら成長していく過程を演じたい」と考えてキャラメイクしたとします。このキャラが『アリアンロッド・リプレイ ルージュ』のノエルのように、経験豊富な仲間たちに恵まれれば問題ありませんが……逆に、仲間が年下で未熟なキャラだけだったらどうなるでしょうか? この場合、「未熟者なりに仲間の面倒を見ながら自分自身も成長していく」という方向へ転換することも可能ですが、それは当初のコンセプトとは似て非なるものです。
立場を裏返して、「PTの保護者であり精神的な支柱となる壮年騎士」というコンセプトの場合。このキャラが「教え導かれる若い仲間」と組むことで互いの個性を引き立て合おうというのは一目瞭然ですが、味方が自分と同年代以上のオッサン・爺さんだけなら、PLの狙いは丸潰れです。
もうちょい別の例を挙げてみると。「えっちな発言で周囲を翻弄する小悪魔的なお姉さんキャラ」を演じる場合、やはり味方には生真面目系や純情系のキャラが欲しいところです。しかし、周りがエロ発言に寛容すぎてスルーされたり、もっとギラギラしたエロい男性陣に囲まれてセクハラされまくりだったりすると、PL本人の意図は全く実現されずに終わってしまいますよね。
いずれの例も、本人の狙いを通すためにはキャラメイク前の時点で他のプレイヤーに条件をつける必要があるので、遠慮したり拒否されたりといったケースも多いでしょう。かといって、キャラメイク後に「役柄」や人間関係を決める場合は、どうしても「キャラの個性や相性」が優先され、関係構築の自由度は低下しがちです。


◆3:希望する「役柄」を演じるためには?◆


「役割」分担の場合と同じで、やりたい「役柄」がある場合は、キャラメイク前の早い段階で希望を出すというのが、対処法の一つ。
その「役柄」が生み出す影響力や人間関係の規模によって、周囲への要求は増えたり減ったりします。たとえば前項で挙げたような例なら最低1人のPLが同調して対応キャラを作ってくれれば機能します(壮年騎士に対する見習い剣士、小悪魔お姉さんに対する弄られショタor生真面目青年など)。しかし、「PT全体を振り回すワガママ姫様」みたいなキャラをやろうとすれば、ほぼ全員の協力が必要になるでしょう*1。場合によっては、1人の希望がPT全員の作成条件やシナリオ自体にまで制約を与えてしまう場合もあるので、あまり極端なのはダメモトのつもりで考えた方がいいでしょうね。
望ましいのは、掛け合いによって相方役PCの魅力も引き出されるような提案を行うこと。自分のキャラを目立たせることだけ考えて、他のPCをダシに使うだけでは、誰も応じてくれないでしょう。
また、自分が「役柄」を提案できるプレイ環境では、当然ながら他のPLによる「役柄」提案も出てきます。自分の要求を通しつつ他のPCとの関係も上手く組み込み、1対1ではなく網目状の人間関係を構成していければベターだと思います。なお、いきなり全ての関係を1セッションで再現すると話が錯綜しやすいので、本格的にやるならキャンペーンで少しずつ段階的に各PCの「役柄」や関係を固めていくと良いでしょう(最初から仕込む他にも、実際セッションを始めてから生まれる関係も当然あるわけですし)。


もう一つは、GMや他のPLと一緒にやりたいキャラの要望を出しあい、あらかじめPC枠やPC間コネクションの概要を決めてからキャラメイクに移るというやり方。
PC枠やハンドアウトは、ほとんどがGMのシナリオと意向に基づいて作られます。しかし、PLがアイデアを出しあってPC枠やハンドアウト作成に参加したり、NPCへのコネだけでなくPC間コネクションをハンドアウトに盛り込んだりすれば、PC同士の関係を作りやすくなるのでは?




今回も前に書いたハンドアウトの話と同様、読む人によっては「他人に指図されないで自由にキャラを作りたい!」とか「いちいち言葉にして確認するのは野暮だ」という風に反発されるかもしれません。待ちの広いキャラを作り、周囲に合わせて自分の「役柄」を柔軟に変化させていくというプレイスタイルも勿論アリです。
……それでも、あらかじめ各自の「役柄」を明確化して分担しあう方が噛み合いやすく、人間関係やドラマを掘り下げやすいということ。「自分がやりたいこと」と「他人がやりたいこと」に上手く折り合いをつけて、重層的な関係を築くことができれば理想的ですね。

*1:ドラクエ4」第2章のアリーナ姫に対する「振り回され&ラブコメ要員」クリフトと「小言役&年長者」ブライみたいな、トータルバランスを考慮したキャラクター配置=「役柄」分担。