「PC枠」の概念拡張によるシナリオ作成法

新規キャラメイクを前提としたワンオフシナリオに限定した話です。ある意味、小説のプロットに似てるかも?
ちなみに、今回の話は前回同様、「より密度の濃いストーリーを生み出す」ことを主目的にしています。PLがゲーム的な試行錯誤や「まず自分の持ちキャラありき」なプレイを楽しみたい場合は役に立たないと思うので、悪しからず。

  1. シナリオの中核となるアイデアやキャラ、シーン等を思いついたら、それを活かすような形で粗筋を組み立てる。
  2. ストーリーを構成するために必要な役柄*1を、PC/NPCの区別なくリストアップする。
  3. 前項でリストアップした役柄の中から「PC向きではない」ものを除外し、NPCとする。条件は「主人公側のキャラクターと最終的に敵対することが避けられない(ラスボス)」「どんな行動を取ってもシナリオが殆ど変化しない」「自分自身で状況を打開することができない」など、PCとして演じても面白みがないこと。
  4. 前項で除外されなかった役柄の中から、なるべく活躍度が高く不確定要素となりうるものを上から順にPCの人数分だけ抽出する。こうして選んだ役柄をPC枠へ振り分け、ハンドアウトやコネを付け加える。
  5. PLの嗜好や得意不得意などに応じて、当落線上のNPCに与えられている役割をPC枠と適当に入れ替える。

ポイントは2つ。PC/NPCを問わず登場人物全員の役割を「PC枠」という同じ概念でリストアップし、その中からPLが演じるキャラを選び出して使うことと、場合によってはNPCの役割をPCに、PCの役割をNPCに振り替えるという発想を持つことです。


ちょっと分かりにくいかもしれないので、具体例を。


a)NPC枠→PC枠



たとえば、ボーイミーツガール系のシナリオで「不幸な境遇のヒロイン」を出すとします。このヒロインが自分では逆境を打破する力を持たず、主人公たちに助けを求める「無力で可憐なお姫様」だとすれば、NPCとしてGMが演じたほうが良いでしょう。
しかし、ヒロインが「悪の組織から逃亡した殺戮人形」だった場合はどうでしょうか? もちろんNPCとして魅力的に演じることも可能ですが、PCとしてPLの手に委ねた方が面白いドラマを生み出してくれるかもしれません。PCに据えた時点で「最終的に善玉と化し、他のPCと共闘する」可能性が高まるのでロールプレイもしやすいし、戦闘力があるからクライマックスでの活躍も保証されます。前述の「お姫様」にアコライト/バードのような支援能力を与えてPC化し、勇気を振り絞って冒険者と共に戦うまでの過程を演じてもらうというのも面白いですね。
えてして、主人公系のキャラがNPCである場合は「GMが操るPC」のように悪目立ちしてPCの存在感を喰ってしまうことが多いので、思い切ってPC枠に預けてしまうのも一手だと思います。ただし、同じバトルヒロインでも最終的にPCと敵対することが避けられない(悲劇的展開になる)ことが確定している場合は、NPCのままの方が良いでしょうね*2


また、NPC枠をPC枠に置き換えるという考え方は、PLの立場からは気付きにくい(シナリオ作成者の視点から見なければ発想しにくい)役柄を提案するのにも有効です。
たとえば「(最終的にPC側へ寝返る)ボス敵の側近」。恩義を感じ・あるいは理想に惹かれて尽くしていたが、最近どうも相手の様子が変だ(魔物に取り憑かれた?それとも野心に囚われ悪に染まってしまった?等)。止めなければならないが、自分一人の力ではどうにもならない……といった設定を考えてみます。この手のキャラは序盤でライバル役・中盤から後半にかけて内通者役を演じ、終盤ではPCと共闘したり返り討ちに遭ってPCに無念を託したりするパターンが多いと思います。
この「側近」役をPC化した場合、セッションの比較的早い段階から「敵側の内部事情を他のPLに知らせる」というメタ視点の供給源が生まれます。側近役の葛藤や裏切りも、PLが当事者として演じることでドラマチックに描かれることでしょう。(あえてボスへの忠誠を貫き、PCと戦って華々しく散るというのもまた王道ですが、PC化には不向きかも)
他のPCと協調するにせよ戦うにせよ、「PC間対立の落としどころ」を理解しているPLでないと扱いが難しいので、このような場合は役柄をPC枠に預けるかどうか熟考した方が良いでしょうね。


既定のNPCがキャラメイク後に消滅する場合もあります。単純な例では、「PC間に師弟関係が成立すれば、師匠役NPCは不要」というもの。この場合、本来は2人分用意されていたコネや個別導入が「師匠役PCまたは弟子役PC、いずれか一方を引き込めばOK(もう一方も半自動的にシナリオへ関わることになる)」という具合に単純化され、シナリオを整理できることでしょう。


b)PC枠→NPC



今度は逆に、PCとして想定されていた役割をNPCに丸投げする場合。
極端な例になりますが、5人パーティーを想定した戦闘中心のシナリオに、ほんの少しだけ情報収集や鍵開けの要素を組み込むとします。この場合、普通はPCのうち誰か1人が盗賊や情報収集担当キャラを演じることになりますが、ほとんど出番がなかったり、自分の出番では独壇場になりすぎて他の4人が何もできなかったり……と、お互い退屈を強いるような状況が生まれてしまうこともあります。
それなら、いっそのこと「必要な情報は情報屋に会えば全部手に入る」とか「鍵開けはNPCの錠前師を雇う(または魔法の鍵を購入する)」とかいう形で人任せにし、PCが戦闘に専念できるシナリオにしてもいいんじゃないでしょうか?
もちろん、PLがシーフの役割や情報収集を楽しみたいと考える場合も多いですから、無配慮に仕事を奪ってしまうのも困りものです。あくまでシナリオ全体から見て重要度が低く、PLが演じてもつまらないと予想できる場合に適用する、ということで。
PL全員が戦闘特化キャラを希望して誰もシーフをやりたがらなかった場合、「鍵開けの技術は完璧だがスペランカーのように貧弱なNPC錠前師」を登場させ、彼を護りながら戦ってもらう……といった使い方も考えられますね。


こうした概念を取り入れると、登場人物それぞれの役目を絞り込んで密度の濃いストーリーを作りやすくなるのでは?と考えます。そのうち試してみたいですね。

*1:「ヒロイン」「ボス敵」「裏切り者」「情報屋」など、大雑把な役付け程度で良い

*2:当事者含め卓全体が「悲劇の対決」を望んでいる場合は、この限りではありません